お題:ミスターレディ


Unexpected trap







秋も深まり、紅葉と夕焼けが辺りを赤く染めはじめた頃、聖ポーリア学園
ボクシング部ではサンドバッグを叩く鋭い音が鳴り響いていた。


「日野くん、遅いねぇ…」


洗い立てのタオルを胸に抱えながら、蘭世は掛け時計を眺めた。
蘭世の声に、俊は思わず動いている手を止め、ちらりと掛け時計に目をやり、
そして視線を蘭世へとぶつける。
そして、しばらく(といってもほんの1,2秒ではあるが)蘭世の表情を
眺めたかと思うと、やがてゆっくりと口を開いた。

「あぁ、もうすぐだからな。やることが多くて大変なんだとよ」
「…うん、そうね。大変そうよね。神谷さんも忙しそうだもんね」
蘭世はそう言うと、俊にタオルを渡す。

「サンキュ」
俊はそれを受け取ると、額の汗を拭った。にっこりと微笑んで俊を見つめる蘭世。
その視線が気になり、俊は手の動きを止め、蘭世を見やる。


「…なんだよ」
「ふふっ。何だか部室で二人っきりなんてロマンチックv」
「・・・・」

俊は、夢見る乙女顔の蘭世を黙って見つめたかと思うと、1歩、2歩、と、ゆっくりと
蘭世に歩み寄る。俊の真剣な表情に、蘭世はドキリとして、真顔で俊の視線に答える。
俊の手が蘭世の頬に触れようとしたその時。


「おっ邪魔〜」
ガチャリとドアが開いたかと思うと、威勢のいい声が耳に飛び込んできた。


「ア、アロン!!」

突然の出来事に驚いた蘭世は、俊にしがみつく格好になっていた。
アロンはそんな2人を見て、
「ホントにお邪魔だったかな」
と笑って見せた。アロンの言葉に、真っ赤になる蘭世。

「何の用だよ」
一方の俊は、努めて冷静に、アロンに質問を投げかけた。

「ひどいなぁ、俊。弟に向かってそんな言いぐさはないだろっ。久しぶりに
人間界に遊びに来たんじゃないか」
いけしゃあしゃあと言ってのけるアロンに、俊の額には青筋が一つ。

「お前なぁ。一つの世界を支配する王だろう! 自覚あるのか!
人間界に遊びに来れるような立場だと思ってるのか!」

俊の声が部室に轟いても、アロンの表情は何一つ変わらない。

「まぁまぁ、そう言うなよ。せっかく1週間、夏休みもらったんだからさぁ。
楽しませてくれよ」
「今は秋だ! とっくに夏は終わってる! だいたい魔界に季節があるわけねぇだろ!」
怒鳴る俊に、蘭世はおろおろ。


「まっ、真壁くん、そんな大声で…。周りに聞こえちゃうよ!」
「どうしたんだよ」

ドアが開いたかと思うと、克が部室に姿を現した。

「外まで声、丸聞こえだぜ…って、アロン!?」
突然目の前に現れた元チームメイトの姿に、克は目を丸くする。

「どうしたんだよ。マカイ国は大丈夫なのか?」
「まぁ、ボクがいなくても、フィラがしっかりしてるし。1週間休暇もらったから、
久々に人間界…じゃなかった、日本に遊びに来たってわけ」
「ふぅ〜ん」
アロンの説明にも、さほど興味を持たない様で、克はすぐに話題を変えた。


「なぁ、真壁。ついさっきの委員会で決まったんだけどさ…」
克の言葉に、俊、蘭世、そしてキョトンとした顔のアロンの視線が克に集中する。

「今年の学園祭で、ミスターレディコンテストをやることになったんだ」
「ミスターレディコンテスト!?」

この言葉に反応を示したのは、蘭世だった。俊は黙ったまま、何を考えているのか
表情からは読み取れない。アロンの頭上には、相変わらず?マークが浮いていた。

「そう。それで…」
「何それ?」

克は説明を続けようとしたが、それはアロンの言葉に遮られる。

「男が女装して、誰が一番女らしいか競うコンテストだよ」
「ふう〜ん?」
アロンは、わかった様なわからない様な顔をして、後の克の説明を待つ。

「男のいる各部から1名、必ず出場する、ということに決まったんだ」
「何だよそれ?」
思いもよらない克の言葉に、明らかに不機嫌な顔になる俊。


「ほら、ウチの学校は男が少ないだろ?
こういうイベントに出る様なヤツもなかなかいない。
だから、半強制的でも、盛り上げるためには仕方ないんだよ」

「俺はやらないぞ!」


強い口調で睨みつける俊を、克はまぁまぁ、となだめる。


「俺も、この企画反対できなかった責任はあるけど、年に1度の大イベントだ。
それにな、優勝した部には強化費が10万円プラスされる事になったんだぜ」


この言葉に、俊も思わず黙り込む。
強化費は欲しい。けれども女装だなんて以ての外だ。
三つ編みしたカツラを被り、むすっとして突っ立っている自分を想像し、思わず頭を
ブンブンと振る。
そんな俊の様子に、克は一人でニヤリとする。


「まっここは一つ、公平にくじで決めようや」
そう言うと克は、マッチ棒を2本取り出した。

「マッチの先端が付いている方が負け。俺が持ってるから、真壁が引けよ」
俊の目の前に、克がすっと手を伸ばすと、思わぬ横やりが入る。


「面白そう! ボクにもやらせて!」
アロンである。
俊と克は、ずるっ、とこけた。

「何言ってんだ、女装だぞ! どこが面白いんだよ!」
いつもにもなく、いらだち気味に怒鳴る俊。

「ボク、家に化粧させられてたから、何ともないよ」
笑顔で答えるアロンに、俊は はぁ〜。と大きなため息をついた。


こいつ、魔界の王っていう自覚、ホントにあるのか?


「まぁいいや。じゃ、1本マッチ棒増やすから、真壁から引けよ」
そう言って、克は3本に増えたマッチ棒を、再び俊の前に突き出した。

「ボクから引くよ!」
アロンの姿が近づき、くじを引こうとするのを、慌てて克が止める。
「やっ、まっ、待て。まっ、真壁からにしようぜ」

克の慌て振りに、何かあると踏んだ俊は、普段は使わない魔界人としての
能力を使った。
俊の中に流れ込んでくる、克の声。


『アロンに引かれたら、この計画がパァーだぜ。真壁の女装が見たいからって決定した
コンテストなんだから。マッチ棒の先端は、3つとも全部付いてるんだからな』


そう言うことか、俊は心でため息をつく。日野のヤロー。

「いいじゃねえか。アロンが引きたいって言ってんだから。それとも、俺が引かなきゃ
いけない理由でもあるのか?」
俊の鋭い視線に、
「いっ、いやっ、別に…」
慌てて否定する克。アロンは、にこにこしながらマッチ棒に手を伸ばし、やや視線を
反らした克は、俊の不敵な笑みに気づかなかった。

「えいっ!」
アロンの引いたマッチ棒は、先が折られていた。

「あ〜、ハズレか〜」
少々がっかり気味のアロンと、目を丸くしてアロンのマッチ棒を見つめる克。

「どうかしたのか?」
俊が平然と聞くと、克は何でもない風を装い、今度は俊にマッチ棒を引かせた。
すると、俊のマッチ棒の先も折られている。

「決まりだな」
にやりと笑い、俊は克に背を見せた。

『どうなってんだよ〜? 確かに全部、折ってないはずなのに…』

克の心の声が聞こえてきて、おかしくてたまらない俊。

「というわけだから、江藤。お前、協力してやれよ。お前でも役に立つだろ」
そう言うと俊は、シャワー室へと消えていった。









     学園祭当日     



「はい、日野くん、これ」
「…何だよこれ」

克は蘭世が差し出したそれを横目で見やった。

「何って、ウィッグよ。これつけなきゃ、女の子らしくないじゃない。
日野くん、ただでさえ髪堅そうなのに…。
それから、日野くんにぴったりのドレスも作ったからね♪」
ウインクして答える蘭世に、克は少々いらつきを覚える。

「…江藤、おまえ、楽しんでるだろ?」
克の言葉に、急にポーカーフェイスを保てず、蘭世は吹き出した。

「だっ、だって、日野くんが女装なんて。ぷぷぷーっ」
「わっ、笑うな!」
「おまえが持ち帰ってきた企画なんだから、自業自得だろ。強化費獲得のために
せいぜい頑張れよ」
俊の言葉に、ぐうの音も出ない克であった。



ピンク色のドレスは、胸元に小さな、そして腰には大きなリボンが付いていて
腰を細く見せるような工夫がされていた。
口紅は、ドレスに合うようなピンク系で、髪(ウィッグ)は軽くウエーブがかかっていて
上品そうな感じが漂っている。

そう、・・・歩かなければ。



いくら練習しても克のがに股は隠しようがなく、上品そうな身なりも、克の歩く姿を
プラスすれば、逆効果なだけだった。

当然、克がミスターレディに選ばれるはずもなく…。
そんな克を、会場の端っこで見守っていた蘭世、そしてその隣には俊の姿も。

「せっかく頑張ったのになぁ…。なぁ〜んか私のお化粧がダメだしされてるよう気分」
多分、克本人以上に気落ちしている出あろう蘭世を、優しい手でぽんと頭を叩く俊。

「あれは誰がどう見たって、日野のがに股のせいだろ。おまえが落ち込むことねぇよ」
「うん。でも…」

まだもの言いたそうな蘭世に、俊はぼそりと独り言のように呟いた。

『おまえはそのままで充分きれいだよ』

真っ赤になって背を向ける俊。

「えっ? 今、何て言ったの?」
キョトンとする蘭世に、
「何でもねぇよ!」
わざと荒っぽくあしらう。その均衡を破ったのはアロンの一言。

「あ〜ぁ〜。ボクが出たかったなぁ〜」
その言葉に、俊はわなわなと震えたかと思うと、

「おまえはさっさと帰って、仕事しろよ!」
会場中に俊の怒号が響き、コンテスト司会者は硬直するのだった。
















そしておまけ↓










おわり




あとがき

**CAZさま**
『ミスターレディ』というお題をいただき、やっぱり皆さんが期待してるのは
王子の女装? と思いつつ、真壁くんの女装姿が想像できなかったので、
今回は日野くんに女装していただきました。
私の駄作にみいさまの素敵な絵をつけてもらうなど、普通では考えられないことを
やらせてもらい、とても楽しく書かせてもらいました。
素敵な絵をつけていただき、みいさまに感謝感激でございます。

ストーリーの中で、王子の女装は出てこなかったのですが(想像の中だけで)、
王子の女装、三つ編み姿まで書いていただき、うぷぷっです。

タイトルの『Unexpected trap』は、『予想外の罠』ということで、日野くんを
表現させていただきました。日野くん、自分の仕掛けた罠に逆にやられた
お間抜けな役でごめんなさ〜いっ。

コラボさせていただいた来碧みいさま、こんな素敵な企画を立てて頂いた皆様方に
感謝しております。ありがとうございました。


**来碧**
ほんとにほんとにっ。今回は平謝りをするしか術がございませんでした。
相方のCAZさまが早々に素敵小説をお書き下さったにもかかわらず、
イラスト描き終えたのが締め切り数日前という・・・
オマケに出来上がりがこんな気色の悪いモンでごめんなさい(_ _;)

一番苦労したのが、アロンの髪色ですかねぇ。だって紫って・・・どうなの;
どうか皆さまには、CAZさまの小説のみをご堪能頂きたいと切に願う次第です。

こんなギリギリの状況ではございましたが。
今回のコラボ、ホントに楽しませて頂きました。
へへへ。クセになりそうです(#^.^#)



と、言うわけでございました。(なにが?)
はい! こちらがCAZさまとのコラボ作品でございまする〜vvv
お祭まんまをそのまんま(あ、韻を踏んじゃったv)←アホ
載せてみましたが、いかがでしょう?
私の腐った脳構造では、CAZ様のような爽やかラブがなかなか書けなくて。
羨ましい限りなのですー (T-T)くぅっ
どうかご教授いただけないでしょうか・・・?(迷惑な;;;)


++閉じてお戻り下さい++

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